医療被ばく
健康影響
安全管理
放射線被ばくによる健康影響は、どのようなことが原因となっているのでしょうか?
放射線が人体に照射されると細胞を構成する分子の化学結合(遺伝子)が切断され、細胞が正しい働きをできなくなることがあります。しかし、多くの場合、人体に備わっている修復能力、回復能力によって、切断された分子結合はごく短時間に修復されます。
これらの能力を上回る損傷を受けた場合、またその傷を治す過程でエラーが生じた場合障害が発生すると考えられています。
被ばくによる影響は、確定的影響と確率的影響に分けられます。
検査により被ばくがあった時、不安に思う影響が、確定的影響と確率的影響のどちらに該当するかにより考え方が変わります。
脱毛や皮膚障害、胎児への影響を不安に思う場合は、確定的影響を考えます。確定的影響には、影響が現れるのに必要な被ばく線量にしきい値があります。つまり、しきい値以下の被ばくでは放射線影響が発生しないため、検査による被ばくがしきい値以下であれば心配の必要がありません。
「がんになること」や突然変異などの遺伝的影響を不安に思う場合は、確率的影響を考えます。確率的影響には、影響が発生する確率は被ばく線量と共に増加します。しかしながら、200mSv以下の被ばくでは放射線影響が自然発生率に対して有意に増加しません。つまり、200mSv以下の被ばくは心配ないということになります。
病院で行われる放射線検査による被ばくは、「医療被ばく」として扱われます。「医療被ばく」は、病気の診断・治療のためにやむを得ず受ける被ばくとして、被ばくによる損害よりも、病気を診断・治療し、生命予後を良くするという利益が上回ることを条件として、被ばく線量に規制がありません。
検査の必要性については、「行為の正当化」として医師がリスクベネフィットを考慮しつつ、検査・治療を選択し、適切に判断されます。そして、「防護の最適化」として、診療放射線技師が放射線量を医療目的に見合うように管理することで安全に提供されます。
放射線による被ばくを考える際に、被ばく線量を示す単位として、Gy(グレイ)とSv(シーベルト)が使われます。
Gy(グレイ)は放射線のエネルギーが物質(人体)に吸収された量(吸収線量)を表す単位で、組織・臓器ごとの部分被ばくを評価するのに使われ、確定的影響を評価するために使われます。
Sv(シーベルト)は、受けた放射線による影響の度合いを表す単位で、放射線の人体への照射による将来の影響を評価するための単位として使用されます。Sv(シーベルト)はGy(グレイ)に係数を掛けて算出され、実効線量とよばれますが、部分的に被ばくした場合であっても、全身被ばくしたとして評価した数値となり、被ばくした集団が被ばくしていない集団に対してどの程度の人数に影響が発生するか、集団に対する損害を評価するために使用され、確率的影響を評価するために使われます。
確定的影響に対する「しきい値」について、一番「しきい値」が低い影響は、胎児に対する影響で、100mGyで流産、形態異常、発育遅延などがあります。胎児の時期によって発生する影響が違いますが、100mGy以下は影響がないと言えます。次に、生殖腺に対する影響として、一時不妊があり、男性で150mGy、女性で650mGyとなっています。また、眼の水晶体で水晶体混濁が500mGyとなっています。皮膚に対する影響は、一過性の紅斑が2000mGy、一過性の脱毛が3000mGyとなっています。
実際の医療機関における放射線検査の被ばく線量については、単純X線撮影(レントゲン)→CT検査→透視検査(胃バリウム検査・注腸など)→血管造影検査(心臓カテーテル検査など)の順に検査線量は高くなっています。
単純X線検査やCT検査では、被ばくによる影響については、腹部を撮影しない検査、つまり性腺(胎児)へ直接放射線(X線)が当たらない場合は、性腺(胎児)への被ばくは無く、確定的影響は発生しません。また、腹部を撮影する検査、つまり性腺(胎児)へ直接X線が当たる場合は、性腺(胎児)への被ばくがあります。しかし、「しきい値」である100mGyに到達するまでに、腹部レントゲンは数百回、腹部CTは数回撮影が可能で、性腺(胎児)への確定的影響は発生しません。がんが発生する確率については、実効線量が200mSvを超えない範囲であるため、自然発生率に対して有意に増加は無く、確率的影響は発生しません。
透視検査や血管造影検査では、撮影と透視を行うため検査部位に対する検査線量も高くなります。もし、性腺(胎児)が検査範囲に入ってくる場合は100mGyを超える可能性があり確定的影響の発生に注意が必要です。また、皮膚の確定的影響についても注意が必要です。
提供
(公社)大阪府診療放射線技師会
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