岩石
放射性元素
放射線の
エネルギー
これから、地中深くにある岩石から出る放射線のエネルギーで地球内部で熱(地熱)が発生していることについて述べていきます。みなさんもご存じだと思いますが、地下水が地中深くで温められて地表に出てきたものが温泉です。時には、火山の近くのマグマで温められていることもあります。マグマは、地熱で溶けた岩石です。地表に溶岩として出てきます。岩石を溶かしてしまう地球深くの熱は、約半分は地球が誕生した時の熱、残りの約半分は岩石が出す放射線のエネルギーから来ています。
ここで疑問が生じます。岩石から放射線が出ているのは知っているが、その放射線で岩石が温められているとは思えない。石とか岩に触っても熱いとか温かいことはないからです。地球が誕生した時の熱が残っているのは理解できるけど、岩石からの放射線で岩石を溶かすほどの熱になっているのは理解できないということです。
岩石からの放射線で岩石を溶かすほどの熱が得られるのは、次の2つの理由からです。1つ目の理由は、地中深くで発生した放射線のエネルギーから得た熱は、周りを熱の伝わりづらい岩石で囲まれているので地表に逃げることができず溜まっていきます。さらに、2つ目の理由として、岩石から放射線は地球が誕生したときから出し続けられていて、1日や1ヶ月ぐらいではほとんど温度が上がらないかもしれませんが、熱が逃げない状態で100年、1000年、10000年と経つとかなり熱を持ってくると考えられます。この2つの理由により、地中深くでは、岩石を溶かすほどの熱が岩石からの放射線のエネルギーで得られています。
ここから、さらに詳しく岩石の放射線について説明していきます。どんな放射線がどのくらい出ているのかも説明していきます。興味のある人は、続けて読んでみてください。
放射線で地中の温まる様子のたとえ
岩石に含まれている主な放射性元素は、カリウム(K)、トリウム(Th)、ウラン(U)とTh、Uから生成される元素です。Kの約0.02%が放射線を出すK(40K)です。UとThはいくつか種類がありますが、すべて放射線を出す放射性元素です。
岩石にこれらの元素がどのくらい含まれているかを調べてみましょう。理科年表(国立天文台編)で調べることができます。理科年表の地学部の中に「地殻における元素の存在度」という表があります。この表に、いろいろな元素の地殻の平均濃度が掲げられています。Kは2.6%、Thは0.0010%、Uは0.0003%となっています。地球全体がこの地殻の平均濃度で放射線を出す元素を含んでいると、地球は今よりもっと熱くなってしまいます。地球内部には、あまり放射線を出す元素がないようです。
また、実際に岩石から出てくる放射線を測って調べることができます。
放射線を測る機器はいろいろな種類がありますが、今回の場合は放射線を出す元素の種類が分かる必要があります。放射線を出す元素を区別して測る方法に、その元素が出す放射線(ガンマ線)のエネルギーで区別して測る方法があります。この方法では、放射線の一種であるガンマ線のエネルギーを測定します。ガンマ線は、放射線を出す元素によってエネルギーが異なるからです。さらに、このガンマ線の強さから、そのガンマ線を出す元素の量が分かります。この方法で、火山岩の一種である花崗岩を測定した結果を表で示します。この表の1gあたりの放射能からその放射線を出す元素の量を計算できます。
この表で、また疑問を持たれたと思います。先ほど述べた放射線を出すK(40K)は表の中に見つけられるけど、ThとUは見つかりません。そのかわり、Ac、Pb、Bi、Tl、Raを見つけることができ、U、Thの仲間と書いてあります。どういうことでしょう。少し説明します。
U、Thはガンマ線を出しません。そして、UとThは放射線を出して別の元素になり、そのできた元素がまた放射線を出すことを繰り返して仲間を作っています(付録を参照ください)。Pb、Bi、TlはUまたはThからできた仲間なのです。この仲間のうち何種類かはガンマ線を出すので量が分かります。このThとUの仲間のガンマ線からガンマ線を出さないTh、U、他の仲間の量も推定できます。
岩石から出るガンマ線を測定した結果からどのようにして岩石から出る放射線のエネルギー(熱量)を計算したらよいでしょうか。まず、ガンマ線を出さない、つまり表に出てこなかった元素の量を推定する必要があります。ThとUの仲間は、後の付録で見られるように、すでに元素の種類とそれが出す放射線の種類とエネルギーが分かっています。したがって、それぞれの量さえわかればあとは簡単な足し算で推定できます。
それでは、ガンマ線を出さない放射性元素の量はどのように推定したらよいでしょうか? ガンマ線を出す元素の量と、その後できた元素の量の関係が分かれば推定できるはずです。この両者の量の関係は、後でできた元素の放射能の半減期と経過時間が分かれば計算できます。放射能の半減期はすでに分かっています。経過時間も岩石ができてから何万年も経っていると思います。特に、もとの元素の放射能の半減期が経過時間に比べて十分長い場合、ある一定の値になることが分かっています。さらに、Th、Uの放射能の半減期は、その仲間の放射能の半減期に比べて十分長く、Th、Uとその仲間の放射能は等しいとしてよいことになります。放射能は、放射線を出す強度と考えてよいので、簡単に岩石が出すエネルギーが計算できます。その結果は次のとおりです。
花崗岩1kgが出す放射線のエネルギー
トリウムの仲間:0.0000000010(10億分の1)ワット
ウランの仲間:0.00000000054 (10億分の0.54)ワット
放射性のカリウム(40K): 0.00000000032 (10億分の0.32)ワット
合計:0.0000000019 (10億分の1.9)ワット
非常にわずかなように思いますが、地球の10%が花崗岩として計算してみると、地球の重さが約6000000000000000000000000(1兆の1兆倍)kgなので約1100000000000000(1千兆)ワットなります。このエネルギーで地球全体を温めると約150年で地球全体を1℃上げるエネルギー量になりますが、15000年で100℃になってしまうのでかなり大きなエネルギー量になってしまいます。これは、花崗岩の量を地球の1/10にしたのが間違いで、K、Th、Uのような放射線を出す元素は地球表面に集中していて、内部にはあまりないと仮定する必要がありそうで、現在では地球内部の元素の分布が分かっており、そのデータを使用すると、地球内部で放射線が出すエネルギーは約24000000000000(24兆)ワットになります。地球が誕生した時の熱も同程度とされています。
最後に、気温(地上の温度)はほとんど地熱の影響を受けていないこと付け加えておきます。気温は、太陽からの熱(エネルギー)によるものですが、大気中に二酸化炭素がなかった場合、現在のように温かくありません。気温は、氷点下になり、地球は凍り付いているでしょう。大気中の二酸化炭素は、現在の気温を維持するために必要です。問題なのは、人間の活動により化石燃料(石炭、石油)を大量に燃やし、急激に大気中の二酸化炭素の量を増やしていることです。
付録
1861年イギリスの科学者ケルビン卿により、地球内部の熱勾配(1m深くなると何度温度が上昇するか)により、地球の年齢は2000万年~4億年と推定されました。しかし、さらに古い岩石が見つかるなどして、この推定した地球の年齢は間違いであることが分かってきました。岩石に、ウラン、トリウムの放射性の元素が入っていると分かってくると、この岩石からでる放射線のエネルギーを入れて推定する必要があることが分かりました。
花崗岩は、マグマが地中で冷えて固まった岩石(火成岩)です。図のように、キラキラ光る石英、白い長石、黒いつぶつぶの雲母の3種の鉱石でできています。酸素以外の主な含まれる元素は、ケイ素(Si) 34%、 アルミニウム(Al) 7.3%、 カリウム(K) 4.5%、 ナトリウム(Na) 2.3%、 鉄(Fe) 1.9%、カルシウム(Ca) 0.95% です。わずかに、ウラン(U)とトリウム(Th)も含まれています。
ワット:1秒あたり約0.24カロリーの熱量。1ワットの熱量で100gの水を10℃温度を上げるのに約4200秒かかります。(熱がどこにも逃げなかった場合)
MeV:呼び方は「メガエレクトロンボルト」 電子が電位差100万Vで得るエネルギー。1MeVの放射線が1秒間に100万回あるものに入ってきた場合そのものが得るエネルギー(熱量)は0.00000016(1千万の1.6)ワットになります。電子が、1MeVの100分の一、10000eVのエネルギーを得た時の速さは、60000000m/秒で光の速さの約1/5になってしまいます。電子はものすごく軽いということになります。アルファー粒子でも、約700000m/秒の速さになります。
ベクレル:放射性物質から1秒間に1回放射線がでる放射能の強さ。Bqで表示します。放射能を発見したフランスの物理学者ベクレルの名前からとりました。カリウム1gで32ベクレル、トリウム1gで4060ベクレル、ウラン1gで12400ベクレルあります。
40Kは下図のように、質量数40のカリウム(K)を表します。質量数は、原子核を構成している陽子の数と中性子の数を足したものです。元素の種類は、陽子の数で決まります。(Kの場合は19)陽子の数が同じでつまり同じ元素で中性子の数が違うものがあり、それらを同位元素と呼びます。
文中に出てきた、232Thは陽子数90、中性子数142、 238Uは陽子数92、中性子数146になります。化学的性質は、原子核の周りをまわっている電子の軌道で決まり、同位元素どうしの電子の軌道に差がないので、化学的性質は同じとなります。
1828年、スウェーデンの化学者イェンス・ベルセリウスによって、ノルウェーの鉱物中から発見されました。トリウムが放射能を持つことは、1896年にドイツのシュミットとフランスのキュリー夫人によって独立して発見されました。
放射線を出して元素の種類が変わりながら、10種の放射線を出す元素で構成されるトリウムの仲間を構成しています。
トリウムの仲間:232Th、 228Ac、228Th、224Ra、220Rn、216Po、212Pb、212Bi、(208Tl〈36%〉、212Pb〈64%〉)
ウランは1789年にドイツのマルティン・ハインリヒ・クラプローによって発見されました。ウランが放射性の元素であることは、1896年ドイツのベクレルにより発見されました。
放射線を出して元素の種類が変わりながら、13種の放射線を出す元素で構成されるウランの仲間を構成しています。
ウランの仲間:238U、234Th、234U、230Th、226Ra、222Rn、218Po、214Pb、214Bi、214Po、210Pb、210Bi、210Po
提供
大阪府立大学 放射線研究センター
伊藤 憲男 助教