プロフェッショナルの声
りんくう総合医療センター
放射線技術科 科長
中前 光弘 さん
放射線技術科 技術管理主査
中平 修司 さん
放射線技術科
人西 健太 さん
診療放射線技師とは、放射線機器を使った検査や治療によって医師をサポートする職業。今回は、りんくう総合医療センターで働く3人の診療放射線技師に話を伺った。
中前:放射線を利用した検査や治療、手術における医師のサポートなど医療的な内容もあれば、画像サーバーやネットワークの管理など工学的な業務もあります。また、磁場と電波を用いた画像検査のMRIや、超音波検査など、放射線を使用しない検査も担当していますので、非常に多種多様な業務内容です。
放射線を用いる代表的なものを紹介していくと、まずは一般撮影。「レントゲン」という名称で知られているものです。X線を目的の部位に照射し、透過したX線を検出器で読み取ることで、身体の構造を画像化して医師に提供します。
続いてX線CT検査です。一般撮影と同じく、X線を用いて身体の内部構造を可視化する検査です。1方向から平面的な画像を撮影する一般撮影とは異なり、360度方向からの情報を立体的な画像として提供します。さまざまな角度からX線を当てるため、精密で高度な検査が可能です。
中平:さらに、X線を用いて血管の内部を調べる、血管造影という検査があります。血管にカテーテルと呼ばれる管を挿入し、造影剤(検査部位の状態を明確にするための薬剤)を目的部位に注入しながら、X線撮影を行います。血管の太さや、血流の速さなどを観察することで、血管の状態を診断します。血管造影では診断と手術を同時に行えるので、病変を発見してからの迅速な治療が可能です。
血管造影装置。さまざまな方向からX線を当て、モニターに血管内の様子を映します。
中前:X線だけではなく、γ線を用いた検査もあります。放射性医薬品を体内に投与し、体内から放出されるγ 線を画像化する核医学検査です。例えばがんの疑いがある患者さんには、がん細胞に集積する性質の薬剤にγ線を放出する薬品を付けた放射性同位元素を投与します。薬剤はがんに集まってγ線を放つので、それを撮像することでガンを見つけることができます。一般撮影やCT検査は体内の形を見る「形態診断」であるのに対し、核医学検査は各臓器の持つ機能を見る「機能診断」に優れています。近年では、認知症などの早期診断にも利用されています。
人西:がんの3大治療法の1つである放射線治療も、私たちの専門分野です。特有の増殖機能を有する DNA に複数回にわたって放射線を照射することでがん細胞を死滅させ、体表や体内にある病巣を破壊する治療法です。手術のようにメスを入れる必要がなく、抗がん剤治療に比べ副作用も少ない治療法とされています。
中前:この仕事を初めて知ったのは、大学進学について考え始めた高校3年生の時です。当時は勉強があまり得意ではありませんでしたが、化学が好きだったので、理系分野の研究をしてみたいと思っていました。そこで診療放射線技師を育成する専門の学校を見つけ、興味を持ったことが最初のきっかけです。
中平:偶然ですが、私と中前さんは同じ学校の卒業生なんです。診療放射線技師を育てる学校は少ないので、こういった偶然は他の職業よりも起こりやすいのかもしれませんね。
私は、理系分野での進学先を考える際に、機械や工学よりも、人と関わることの多い医療分野が向いているのではないかと考えてこの道に進みました。
医療にもさまざまな分野がありますが、所属していたバスケットボール部の練習でケガをした際に、レントゲン撮影をしてもらったことを思い出して、イメージのしやすい診療放射線技師の仕事を選びました。
人西:私も学生時代に野球の練習でケガをして、レントゲン撮影をしてもらったことが、大きな理由のひとつかもしれません。当時は「レントゲンの機械ってどういう仕組みなんだろう」と不思議に思っていました。
また、福島で起こった原子力発電所の事故も大きな理由のひとつです。放射線の問題がとても騒がれていたのでいろいろ調べてみると、危険性を持つ反面、正しく利用すれば社会の役に立つことを知りました。世のためになる技術として放射線を使用したいと思い、放射線で人を助けるこの仕事を目指しました。
中平:入職前には、こんなにも仕事の領域が広いとは想像していませんでした。そもそも高校生の時はレントゲン撮影の業務しか想像していなかったので、専門性の学校に進学してから、検査にもCT、核医学、MRIなどさまざまな種類があることに驚きました。働き始めてからも業務の幅は広がり続けているので、学生時代よりも入職後に学んだことの方が多いです。
中前:技術は日々アップデートし続けていますからね。私が勤め始めた30年以上前は、撮影にはアナログのフィルムを使用していたので、診断のためには毎回フィルムを現像する必要がありました。技師になるための学校では、写真科学の授業があったことを覚えています。それが今では、撮影した画像は、すぐにデジタル画像としてモニターへ表示することができます。
また、医師の業務軽減のために法律が改正されて、放射線技師が担当できる仕事が増えているという現状もありますね。CT検査の後に患者さんの抜針をすることも、診療放射線技師が担当できる業務になりました。医師の業務軽減のためのタスクシフトで、放射線技師の業務が益々拡大されていきますので、この歳になっても日々研修の毎日です。
人西:広範囲で医師のサポートをしている分、自分も患者さんの命を救うための役割を担っているのだと実感します。学生のときよりも、自分が診療放射線技師として働くことの意義を強く感じられるようになりました。
中平:入職した25年前から今にかけて、アナログからデジタル技術へと想像できないような変化がおこりました。そして、この先も技術が進化し続けることは間違いありません。
より低被ばくで精度の高い検査ができるようになったり、メスを入れなくても放射線検査だけでさまざまな病気を診断できたりする時代がくるのではないかと考えています。
人西:治療と直接関係する装置以外に、病院内の情報システムも今後ますます重要になるのではないでしょうか。病院内では電子カルテをはじめ様々なデータを利用しているので、最新のシステムを適切に運用することができれば、業務の効率化が進みそうです。
中前:人西くんは今、病院内の情報システムの企画、導入、管理を行う「医療情報技師」の資格取得を目指しているのですよね。
人西:そうなんです。IT技術の面からも現場を支えたいと思い、勉強に励んでいます。
中平:技術の進歩の恩恵を受けるためには、新しい知識を学び続ける必要がありますね。大変かもしれませんが、私はさまざまな経験ができることをポジティブに捉えています。さまざまな知識を蓄え、診療放射線技師としてのスキルを高め続けたいです。
中前:2人とも、前向きな姿勢で仕事に臨んでくれていますのでとても頼もしいです。技術の進歩はこれからも続きますし、仕事の内容もさらに多様化するはずです。ただ技術の進歩に甘えて機械に頼り切りになることは好ましくありません。ひとりひとりの患者さんがどのような検査を必要としているのかは、これからも機械ではなく、一人の人間として診療放射線技師が考えることです。いろいろなものを吸収して、患者さんに寄り添い成長しようと思える人こそ、診療放射線技師に向いているでしょう。
中前:私たちは病院という医療の最前線の現場で、放射線を活用することによって多くの命を救う仕事をしています。患者さんの笑顔を守るために、病院では医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、医学物理士など、あらゆる職種が一丸となって働いています。そして、病院現場で働く私たちだけではなく、放射線を研究されている多くの方や、病院で使用されている装置を開発する企業の方々も、間接的に患者さんの命を救っているのです。さまざまな方面から放射線に携わる人がいるおかげで、診療放射線技師が病院で多くの患者さんの命を救うお手伝いができていることをお伝えしたいです。
1952年開設。大阪府泉佐野市に所在し、泉州南部の中核病院として地域の医療ニーズに応えている。地域医療支援病院、大阪府がん診療拠点病院、災害拠点病院としての機能に加えて、泉州救命救急センター、泉州広域母子医療センター、特定感染症指定医療機関として極めて特微的な医療機能を有する。