プロフェッショナルの声
株式会社NHVコーポレーション
EB加工部 機能材料事業化推進グループ 主任
奥村 康之 さん
EB加工部 機能材料事業化推進グループ
越智 裕美子 さん
自動車、食品包装、半導体などの身の回りの製品は、「電子線」の活用により高性能な機能が付加されて作られている。今回は、電子線の照射サービスや、電子線照射装置の製造販売を行う株式会社NHVコーポレーションのお2人に話を伺った。
越智:私たちは放射線のひとつである「電子線」を専門に扱う会社です。ご存じない方が多いと思いますが、電子線はゴムやフィルム、プラスチックなど、さまざまな製品の製造過程で使用されています。電子線には物質の特性を変える不思議な力があるからです。
奥村:例としていくつか紹介しましょう。まずこちらには、電線を覆う「電線被覆」が2本あります。電子線を照射したものと照射していないものですが、見た目で区別は付きません。でも、高温のはんだごてを当てると性能の違いが分かります。ご覧のとおり電子線を照射したものは、耐熱性が高くなっているのです。
また、電子線を照射したプラスチックも見てみましょう。プラスチックはもともと、熱によって柔らかくなり、伸びる性質を持っています。こちらのプラスチックは、60度のお湯につけて引っ張ると伸びるようになります。ご注目いただきたいのがこの後。伸びたプラスチックを再度お湯につけると、完全に元の形に戻ります。これが、電子線の照射によって加わった形状記憶機能です。
越智:以上のように、電子線は物質を改質する力を持っています。当社では、そのような電子線の力をお客様の製品製造に活かすためのご提案や、実際の照射サービス、また電子線照射装置の製造、販売を行っています。
越智:弊社のお客様で一番使っていただいている分野は、タイヤ用ゴムの改質です。電子線照射によってゴムの強度を上げ、タイヤの軽量化に役立っています。
奥村:塗料の硬化や食品包装フィルムの改質など、多種多様な照射対象とそれぞれの目的に合わせた照射をする必要があるので、特定の改質方法をルーティンのように行うことはありません。お客様の要望と対象の性質を踏まえて、電子線の強さや使用する薬品などを提案し、試験を行います。
越智:親水性を付加することもあれば、反対に撥水性を与えることもあるなど、電子線の起こす改質は本当に幅広いんですよ。お客様に適切な提案ができるよう、定期的に社内で試験を行い、電子線照射に関する知見を高めています。
奥村:高校時代は科学部に所属しており、大学では有機化学を専攻するなど、昔から化学が好きでした。放射線技術を詳しく学んだことはなかったのですが、培ってきた化学的な目線を活かして製品開発に携わりたいと感じて当社へ入社しました。
お客様の製品開発のお手伝いとして照射の提案をすることが多い仕事ですが、自社で製品開発を行った事例もあります。近頃開発に携わったのは、打ったばかりのコンクリートの養生などに使用する「CMCゲル」。コンクリートの養生用途を開発したお客様からの要望に適したCMCゲルを提供すべく、製造条件の検討を行い、2~3年かけて発売に至りました。
越智:私も、高校時代は物理部に入っていたりして、理科が昔から好きでしたね。NHVコーポレーションを知ったきっかけは、所属していた大学の研究室で当社の照射装置を使用した実験が行われていたことです。私は直接電子線研究には携わっていなかったのですが、発表を聞く機会などを通じて興味を持ち、入社に至りました。
入社後、実際に電子線技術を扱うようになり、その奥深さをますますおもしろく感じるようになりました。近隣にある大学の学生さんが当社の照射装置を使った実験をしに来ることがあるので、電子線の魅力について分かち合っています。
越智:電子線照射装置は、電子線を対象に照射するというひとつの機能しかありません。しかし、同じ装置を「何に対して」「どのように」使用するかによって、得られる結果は全く異なります。可能性が無限大に広がっているところが、電子線の魅力だと感じています。
奥村:その通りですね。世界中で次々と開発される新しい素材にも、電子線を照射するとどのような効果が現れるのだろうと、興味が湧きます。
さらに、環境に優しい技術であることも大きな魅力ではないでしょうか。例えば、塗料の硬化を熱や紫外線ではなく電子線で行うと、エネルギーの消費量を大幅に減らすことができます。また、塗料に混ぜる有機溶剤や添加剤の減量も可能です。塗料以外にも、電子線の技術によって環境負担を減らせる例があるため、積極的に使用していただきたいです。
越智:多くの製品に使用いただくためにも、まずはあまり知られていない電子線の魅力をさまざまな業界に発信しなくてはならないと考えています。
奥村:1960年からタイヤの製造に使用されていたにも関わらず、新しい技術だと思われることが多いですからね。昔から電子線が使用されていた業界には当たり前のように浸透していますが、それ以外の業界には知られていないのが現状です。
越智:広報のために、近頃はオンラインセミナーやWebコンテンツにも力を入れ始めました。製品開発において製造方法を考えるときに、電子線という選択肢があることを、多くのメーカー企業さんに知ってほしいです。SDGsの推進と共に、今こそ電子線技術を広く活用すべきだと考えています。
奥村:学校の授業で放射線技術の用途について習うことがあると思いますが、実際はそれだけではありません。試験されていない素材や分野は数多く残っており、まだまだ大きな可能性を秘めた技術です。これから開発される新しい素材や環境問題による時代の変化など、多くの面にアンテナを張って学び、放射線技術とさまざまなものの組み合わせを想像してみてください。
日新ハイボルテージ株式会社及び日新エレクトロンサービス株式会社が統合し、2003年に設立。前身である日新ハイボルテージ株式会社が30年以上にわたって培ってきた「高電圧技術」をベースに、電子線照射装置の製造・販売や、照射サービスなどを社会に提供する。高品質な照射を可能とする独自技術や、ニーズに応える幅広いラインナップから、同社の電子線照射装置は世界30カ国以上で利用されている。