プロフェッショナルの声

放射線を社会に活かすモノづくりを
装置開発のプロフェッショナル

日立造船株式会社
機械・インフラ事業本部 システム機械ビジネスユニット
設計部 電子線グループ

清水 拓人 さん

用途と使用環境に適した安全な装置があってこそ、放射線技術を社会で活用することができる。今回は、プラント・機械メーカーである日立造船株式会社において、電子線照射装置の開発に携わる清水拓人さんに話を伺った。

Q.事業内容について教えてください。

初めにお伝えしたいのは、当社では現在、造船事業を行っていないということ。社名から「船を造っている会社だろう」と想像されるのは当たり前ですが、祖業である造船事業の管理・管轄は、2002年にユニバーサル造船株式会社 (現:ジャパンマリンユナイテッド株式会社) へと移管しました。
現在は、主に環境・エネルギープラントなどの設計から建設、管理・運営までを行うプラントエンジニアリングに関連する事業と、機械やインフラ設備などを開発、設計および製造するモノづくりに関わる事業において、さまざまな施設や製品を幅広く展開しています。
主力として行っているのは、ごみ焼却発電施設の提供です。これはプラントエンジニアリングに関連する事業にあたりますね。国内のみならず、アメリカ、イギリス、オーストラリア、中国、インドなど諸外国にも展開し、国内には500施設以上、海外には450施設以上の納入実績があります。
放射線に関連するのは、主にモノづくりに関わる事業でしょうか。電子線の放出源となる「電子線エミッタ」という装置を開発、設計および製造し、それを用いた電子線照射装置も開発から製造まで行っています。他には、米や柿あるいは魚介などの食品に付着した微量な放射性物質を検出できる放射線検査装置も同様です。放射線検査装置は、東日本大震災による原子力発電所の事故後に安全・安心な食品をいち早く提供できるようにと短期間で開発した装置です。当社グループの主力として展開するごみ焼却発電設備でも、安全を守るために焼却灰の放射線検査は重要です。

食品放射線検査装置

焼却灰放射線検査装置

また、J-PARC (大強度陽子加速器施設) やSPring-8 (大型放射光施設)、SACLA (X線自由電子レーザー施設) など、の加速器・放射光実験施設の各種制御システムの構築も行い、原子力発電所から発生する使用済核燃料の輸送および貯蔵の際の容器 (キャスク) も開発・製造しています。

Spring-8

使用済み核燃料輸送・貯蔵容器 (金属キャスク)

Q.清水さんはどのような仕事をされているのでしょうか。

電子線エミッタとその高圧電源、それを用いた滅菌装置の設計・開発を担当しています。
弊社で製造している電子線エミッタには、ノズル型のITB電子線エミッタとフラット型のOTB電子線エミッタがあり、それぞれ低エネルギー電子線の照射が可能だという特徴があります。それにより、放射線の取り扱いに必要な資格の中で最も難易度の高い「第1種放射線取扱主任者」の資格がなくても電子線エミッタを搭載した装置を使用することができます。低エネルギーのため対象物の表面のみを照射することができ、中身にはほとんど影響を及ぼしません。

こちらが電子線エミッタの写真。コンパクトな設計となっており、既存の装置にも簡単に設置できる。

放射線を照射する装置において電子線エミッタはとても重要な役割を担っていますが、あくまでも部品のひとつに過ぎません。社会に求められる装置を考え、電子線エミッタを有効利用する方法を開発することも重要です。
現在は、電子線技術を活用する余地がありそうな医薬分野を対象にして、積極的に製品開発に取り組んでいます。具体的な例を挙げると、「電子線タブ滅菌機」という装置を開発しました。

タブ滅菌機

シリンジタブの照射像

こちらは医薬分野向けで滅菌のためにシリンジタブに電子線を照射する装置です。みなさんは注射を受けるときに、よく小瓶に入った薬液を注射器で吸い取る様子を目にしますよね。このような手作業ではどうしても薬液の量や種類を間違えてしまう可能性が生まれます。そのようなヒューマンエラーを防止し、注射器の取り扱いを簡単にするために、あらかじめ薬液が注入された注射器 (プレフィルドシリンジ) の需要が増えるのではないかと分析。当社グループでは薬液を注入する充填機も製造していますので、充填機と組み合わせた全体システムも提案しています。

Q.清水さんが電子線エミッタや電子線滅菌装置の開発に携わるようになった経緯を教えてください。

入社当時、当社グループはまだ電子線技術を扱っていませんでした。私は入社してからしばらくの間、レーザを使ってモノの裁断や彫刻を行う「レーザ加工機」の開発を担当していました。そもそも日立造船に入社したのも、大学院生の時から研究していたレーザ加工に関連する業務をしたいと考えたからです。
当社がアメリカのベンチャー企業から電子線技術を引き継ぐことになった後、要請があり電子線の部署への異動が決まりました。ですので、それまで電子線どころか放射線に関する知識はほとんどなかったのです。当社にとっても、自分にとっても、電子線技術は新しい取り組みでした。
勉強を重ね、今となっては、環境に優しく、活用の幅が広い電子線がとても魅力的な技術だと分かります。是非もっと多くの方に、電子線技術や当社グループで製造する装置について知ってほしいです。

Q.電子線装置の設計・開発における今後の展望をお教えください。

先ほど医薬分野を例に挙げましたが、今後活発になると推測される再生医療分野において活躍できるのではないかと考えています。再生医療はヒト由来の生きた細胞等を用いるため、取り扱うもの全てが無菌状態である必要があります。手作業の消毒では非常に手間がかかり、抜かりなく殺菌されているのか判断が難しいので、短時間で効率よく滅菌できる電子線滅菌装置は非常に効果的です。
実際に、京都大学iPS細胞研究所「CiRA」に電子線滅菌装置の「電子線パスボックス」を設置しました。また、大阪府と企業、病院が一体となり、再生医療をはじめとした最先端の「未来医療」を提供する「未来医療国際拠点」の設立企業として、当社も取り組みに協力しています。単純な製品の売り込みだけでなく、使用してもらうことで電子線滅菌の良さを理解していただきたいです。

Q.最後に、放射線技術に関わるこれからの若者へのメッセージをお願いします。

過去に起きた事故などのイメージから、放射線を「目に見えない怖いもの」だと感じている人は多いと思います。しかし、見えない大きな可能性を秘めた、便利で役に立つ魅力的な技術であることは確かです。放射線の明るい面を捉えて、さまざまな使用方法を考えれば、社会に役立たせる新たな技術を開発できるかもしれません。放射線の大きな可能性をポジティブに捉えながら学習してほしいです。

日立造船株式会社

会社概要

1881年、英国北アイルランド出身のE.H.ハンターが日立造船の前身である「大阪鉄工所」を創立。1943年に社名を「日立造船株式会社」へと改めた。造船事業を初めとして広範囲に事業領域を展開し、現在は、サステナブルで安心・安全な社会を実現するために「クリーンなエネルギー」、「クリーンな水」、そして「環境保全、災害に強く豊かな街づくり」を軸に事業を展開し、世界の社会問題の解決に向けて貢献している。

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