プロフェッショナルの声
株式会社YMIT
開発部 部長
塘岡 孝敏 さん
レントゲンなどの医療用画像診断装置が、X線の照射によって身体の内部を撮影していることは多くの人が知っているだろう。通常のカメラは人間の目と同じように、レンズに光を集めて像を作ることで、見える景色をそのまま画像化する。ではレントゲン装置は、どのようにして目に見えない体内を画像化しているのだろうか。それを実現するのが、「シンチレータプレート」という道具の存在だ。今回はシンチレータを研究・開発・製造する株式会社YMITの塘岡さんに話を伺った。
私たちは、レントゲンなどの医療用画像診断に使用される「シンチレータプレート」をつくるメーカーです。
レントゲンは、放射線の一種である「X線」の、モノを通り抜ける性質を利用しています。人体にはX線が透過しやすい物質(肺や脂肪)と透過しにくい物質(骨など)が存在するので、その透過量の違いによって体内を画像化しています。
(参照: 研究レポート2「医療で役立つ放射線 X線撮影による画像診断の今」 )
目に見えないX線の透過量を検知し、形にするのが「シンチレータプレート」です。
シンチレータとは、X線の強さに応じて光を出す働きを持つ物質のこと。レントゲン撮影では、被写体の後ろにシンチレータプレートを設置することで、体を透過したX線を光に変えているのです。X線の強さによってシンチレータが発する光の量は変わるため、透過量の違いが画像の濃淡として表れ、体内の形を見ることができる仕組みになっています。
シンチレータプレートは医療用画像診断装置には欠かせない部品です。私たちはその研究・開発・製造を行い、アジア、アメリカ、ヨーロッパ諸国に製品を届け、世界の医療に貢献しています。
シンチレータはCsl(ヨウ化セシウム)を主成分とする物質です。これを真空空間で蒸着(蒸発させて板の表面に付着させること)して、プレートにしています。
プレートに蒸着したシンチレータは、直径数ミクロンの柱の構造をとります。X線は柱の形になったシンチレータの中で光へと変化します。
レントゲン検査では、多量のX線を照射するほど高品位な画像を映し出すことができますが、X線の量が増えるほど人体への負担は増します。シンチレータから出た光が散乱しにくくなるような蒸着のプロセスを発見し、少ないX線量でクリアな画像解析を実現できるように、私たちは日々研究開発に励んでいます。
蒸着した後の工程も大切です。まずはプレートのパッケージ。空気や水分が付かないように、機械で真空状態を作ってカバーフィルムを貼り付けます。
その後は製品検査です。隙間なくフィルムが接着されているか、フィルムに異常がないかなどを一つひとつ手作業で確認します。最後に画像解析で製品に欠陥がないかを確認し、出荷します。
実は今のような放射線に関わる仕事に就いたのは3年前です。大学の専門は情報工学で、卒業後も半導体や液晶ディスプレイに関わる仕事をしていたため、放射線分野は全くの専門外でした。興味を持つきっかけとなったのは、前にいた会社で医療用ディスプレイの開発に携わった経験でしょうか。ちょうどレントゲン撮影の表示先がアナログのフィルムからデジタルディスプレイに代わる転換期に、画像をいかに鮮明に映し出すかという課題に取り組んでいました。デバイスの精度を上げることで医療の役に立ち、間接的であれ人を助けることができると実感を得たことから、医療用画像分野への興味関心が芽生えたと覚えています。
レントゲン装置はX線発生器に始まり、検出器、信号処理装置、表示装置などさまざまな部品が組み合わさってできています。結果を映す液晶ディスプレイがレントゲン装置の「出口」ならば、シンチレータはX線を受け付ける「入口」の部分です。医療用画像分野で幅広く仕事をしたいと考える私にとって、YMITでのシンチレータ開発は必須科目であるように感じて、入社を決めました。
X線の発見から130年近く経過し、さまざまな医療画像撮影の技術が開発されてきましたが、X線撮影という検査方法は変わらず医療現場における中心的な存在です。
患者さんやX線に近い場所で仕事をされる医療従事者の方々が、被ばくに対する不安を持たないためにも、シンチレータの性能を高め続けることは重要です。「少ないX線量でクリアに画像が映せるようにする」や、「ハードな使い方をしても壊れにくい耐久性をつける」など、一つずつでも課題をクリアできるように研究を続けています。派手なテーマではありませんが、利用者に優しく・医療の質を向上させられる、世界No.1のシンチレータメーカーをめざしています。
医療分野、製品加工の分野からX線天体物学といった分野まで、放射線が利用される分野はとても多彩です。ネガティブなイメージを持たれることも多い放射線ですが、見えないところでたくさん活躍しています。私も今まさに放射線について学んでいる最中ですが、安全性を保ちながら使える技術を開発することで、自然界に存在するこの不思議な力をもっと人の役に立たせたいと思うようになりました。学生のみなさんは、勉強されている放射線の技術を通して、どのような社会を実現したいのか、じっくり考えてみてください。
約120年前、ドイツのヴィルヘルム・レントゲン博士が現代医学には欠かせない電磁波「X線」を発見した。YMITはそのX線を光に変換するシンチレータを開発・製造することで世界に貢献する企業である。 シンチレータをセンサーに直接取り付ける高度な技術で、X線被ばく量低減に大きく貢献している。