医療で役立つ放射線
X線撮影による画像診断の今

X線

画像診断

COVID-19

放射線を利用した画像診断とは?

医療における画像検査の目的は「病変を見つけること」ですが、他にも「病気の程度の判断」や「病気の状態の経過観察」とさまざまです。このように放射線(X線*1)を利用した画像検査は、診療を行う医療の現場において、とても重要な位置付けとされています*2。
それでは、X線画像はどのように作り出されているのでしょうか? X線の性質として物質を透過することはよく知られていますが、X線は全ての物質に対し、均等に透過するわけではありません。実は、人体にはX線が透過しやすい物質(肺や脂肪)と透過しにくい物質(骨など)が存在します。
X線発生装置より照射されたX線が体内を通過するとき、透過しにくい物質ではX線が吸収され、透過されるX線量は少なくなります。このようにX線画像は、X線の透過量(物質による吸収差)の違いを画像化してるのです。
一般撮影やTV検査*3では、1方向からの透過データをそのまま画像化しますが、CT検査ではさまざまな角度(360度方向)からの透過データを計算(再構成)することにより断面データとして画像化します。

画像提供:(公社)大阪府診療放射線技師会

*1 放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線などがありますが、その種類の一つにX線があります。
X線は電波や太陽光と同じ電磁波の一種であり、その波長は1pm-10pmと短いため、空気や物質の中を直進する性質を持っています。
*2 公益社団法人大阪府診療放射線技師会ホームページ http://www.daihougi.ne.jp/
参考:「みんなのくらしと放射線展」知識普及実行委員会編 みんなのくらしと放射線 2008年8月発行
*3 TV検査では一般撮影では画像化できない臓器の位置や形などを、造影剤という薬品を使って確認します。胃のバリウム検査(胃部透視検査)などが有名です。

新型コロナ感染者の撮影前には感染防護を徹底!

新型コロナウイルスに感染した患者さんの撮影を行う際、最も重要なことは感染を広げない事です。そのためには、個人用防護具(PPE:Personal Protective Equipment)を着用し、まずは自分自身を守ることが必須となります。
一般的に飛沫や粘膜からの感染を防止するためには、フェイスシールドやN95マスク*4を着用します。患者さんと触れる領域はエプロンなどの防護着でカバーしますが、患者さんに最も触れる手部については手袋を2重に装着し、徹底して防護を行います。
また、CT検査を行う際は、あらかじめ患者さんの寝る寝台部分に防水性紙カバーを敷いておきます。この紙カバーはウイルスによる医療機器への汚染を防止する目的で使用します。万一、医療機器がウイルス汚染をしてしまうと、機器を介してウイルスが他の患者へ伝播してしまうので、細心の注意が必要となります。

画像提供:りんくう総合医療センター

*4 一般的に、結核などの空気感染を起こす病原菌は0.5μm以下の飛沫核となり空気中を浮遊します。N95マスクは0.3μmの微粒子を95%以上捕集できると認められた高性能のマスクのことです。密閉性が高く、隙間がほぼできないように設計されています。その反面、呼吸がしにくく、息苦しさを感じる方もいますので、日常生活での使用よりも医療や建築現場のような特殊な場面で使用されることが多いです。

新型コロナによる肺炎はCT検査が威力を発揮する!?

新型コロナに対する画像診断は、胸部X線撮影と胸部CT撮影が行われます。
X線撮影は初期診断に行われ、入院後においては経過観察の診断に利用されます。診療放射線技師が移動型の撮影装置を用いて、病室内でX線撮影を行うことにより、患者自身に移動して頂くことなく検査を行うことができます。病室撮影では患者の院内移動に伴うさまざまな負担(患者負担、感染拡大リスク)を抑えることができます。

画像提供:りんくう総合医療センター

CT撮影も初期診断に威力を発揮します。1方向透過画像のX線画像と異なり、CT画像は輪切り画像となり、内部の状態が観察できます。肺のどの位置に病変があるのか?その程度は?病変の状態をより明確に確認できます。
新型コロナの初期肺炎は他の肺炎と異なりとても淡い(はっきりしない)像であり、さまざまな場所に発生するという特徴があります。画像検査だけで新型コロナの診断は困難ですが、肺の状態を詳しく把握することにより、治療方針の指標となる重要な検査となっています。

画像提供:りんくう総合医療センター

数日前より発熱したため受診し、PCR検査にて陽性となった患者の胸部撮影とCT画像を示します。

*5 人体の断面を表現する名称として体軸断、冠状断、矢状断があります。
体軸断:頭尾(頭足)方向に対して直交する断面
冠状断:前後方向に対して直交する(腹側と背中側を分割する)断面
矢状断:左右方向に対して直交する(左側と右側を分割する)断面

新型コロナによる肺炎像~胸部CT画像~

最後に胸部CT検査で得られた肺野の画像を提示いたします。

画像①は正常な方の肺の画像です(画像:左上)。通常、肺のCT画像では、中央に心臓があり、左右に分かれて右肺・左肺があります。肺の中には「肺に取りこまれた空気の部分(黒色の部分)」と「動脈・静脈の血管(白い線状の部分)」が存在します。
画像②、③は新型コロナ陽性と診断された患者さんの胸部CT画像です。画像②は軽症患者さんの肺の画像ですが、肺の外側に沿うように円形に近い白色の淡い像が写っています。この淡い綿のような部分が炎症をあらわしています。新型コロナによる肺炎では、この淡い炎症が肺のさまざまな領域に生じるという特徴があります。
画像③は中等度患者さんの肺の画像です。炎症の部分がより広範囲に広がり、また像の淡さがより濃くなっているのがわかります。
このようにCT検査は炎症の有無・程度・広がりや、その他の病変の有無などを確認するために行われます。

画像提供:りんくう総合医療センター

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(公社)大阪府診療放射線技師会
URL:http://www.daihougi.ne.jp/