放射線活用による滅菌/食技術と放射線

食の安全

滅菌

無菌充填包装

殺菌はどうして必要なのか

私達が健康で安全な生活を送るためには食の安全と病気の予防が大切ですね。食の安全を脅かす食中毒や病気にかかる原因は、目に見えないごく小さな生物、すなわち微生物が大きく関わっています。微生物は多くの種類があり、身の回りに日常的に存在して私達のくらしに大きく関わっています。微生物の中には役に立つもの多数あり、古くから酒や味噌、チーズなどの食品の製造など私達の食生活に役立っている一方で、ときには食品などの変敗(炭水化物や脂肪)や腐敗(タンパク質)を招き、健康を損なう病気の原因となります。したがって私達が健康な生活を送るためには必要に応じて有害な微生物を殺菌する必要があります。

古代の人びとは食品の変敗や腐敗を防ぐために、乾物や塩漬け、砂糖漬けなどにして日持ちさせる方法を伝統的に行ってきました。これは食品中の微生物が増えるのを防ぐ役割をはたします。また火を使った加熱により、食材を調理すると同時に殺菌することができ、知らないうちに食中毒防止の恩恵も無意識のうちに受けてきたわけです。

食生活の変化によってますます高まる殺菌の必要性

食品の分野では、1960年代から90年代にかけて、収穫された一次的な食材を家庭で調理するのではなく、調理されたものを買ってきて食べるという食生活の大きな変化により、加工食品が一層増え、食品工場のマスプロ化が進みました。そこでの微生物管理は非常に難しく、現在、日本をはじめとする殺菌・消毒の先進国でも食中毒はいまだに頻発し問題となっています。

また、食に対する味や新鮮さなどの要求度はますます高まっており、それらを追求した新たな食品の製造方法として「無菌充填包装」が一般化しています。これは、ペットボトルなどの食材を入れる包装材を予め滅菌処理しておき、あらかじめ調理や殺菌した飲料や食材を無菌環境で詰める、という方法です。

[滅菌]とは包装材に付着している微生物すべてを殺したり取り除いたりして無菌にするという意味です。「無菌充填包装」にはもともと過酸化水素や過酢酸といった薬剤が利用されてきました。しかし、これらの薬剤を処理したあと完全に取り除くためには大量の水を使う必要があるなど、ボトル内の飲料や食材の品質と安全性を確保することは大変手間がかかり、排水の処理など環境対策にも気を使わなければならない状況です。 

そこで、このような殺菌に関する問題を解決できる方法として放射線殺菌が注目されています。

注目される放射線殺菌

放射線は紫外線と同様、温度上昇が小さく、しかも紫外線よりも透過力が大きいため包装された製品の内部まで容易に殺菌することができ、医療用具や包装材の滅菌には放射線の利用が進んでいます。無菌充填包装においても薬剤の代わりに低エネルギーの電子線を利用したシステムがすでに実用化されています。

食材・食品への放射線利用は、1950年代から我が国も含む世界各国で研究が続けられ、FAO(国際連合食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)、WHO(国際保健機構)合同専門家委員会をはじめとする国際機関によりすでに安全性が認められています。現在50か国を超える国々で食品への適用が実施されており、最近ではアジア地域での利用が拡大しています。

アジア地域の食品の放射線殺菌の普及

中国の食品照射の進展

べトナムの食品照射の進展

先にも述べたように放射線殺菌においては温度上昇が少ないため、加熱殺菌をすると著しく香味が損なわれる香辛料、ハーブ類や、冷凍肉などの冷凍食品の殺菌に有効な方法として期待されています。残念ながら日本では食品そのものの放射線殺菌はまだ許可されていませんが、ペットボトル、キャップ類から焼き鳥の串、割り箸、トレイ、コーヒーフレッシュのパッケージなどに至るまで放射線滅菌が広まってきています。日本での食材・食品そのものへの放射線殺菌・滅菌の実用化はまだ先のことになりそうですが、2000年から許可申請が出ている香辛料の放射線殺菌やさらに最近では根強い人気があるのにもかかわらず食中毒の危険性のため禁止されている生レバーに対する放射線殺菌の実用化に期待したいところです。

香辛料の殺菌による色の変化

提供
大阪府立大学 放射線研究センター
古田 雅一 教授
URL:http://www.riast.osakafu-u.ac.jp/~qbc/qbc-fs2.html