プロフェッショナルの声

社会資本の「安全の防人」
非破壊検査のプロフェッショナル

非破壊検査株式会社
技術本部 検査技術センター センター長

篠田 邦彦 さん

私たちの便利な生活を支えるプラントやインフラなどの社会資本には、事故やトラブルを未然に防ぐための定期的な検査が欠かせない。今回は、さまざまな社会資本の検査を通じて社会の安全を守る、非破壊検査株式会社の篠田邦彦さんに話を伺った。

Q.事業内容について教えてください。

社名にもなっている非破壊検査とは、放射線、超音波、磁気などの性質を応用し、対象物を壊すことなく調べる検査のことです。私たちはそんな非破壊検査の技術により、発電所や工場、超高層ビル、船や橋などの状態を検査し、欠損や劣化によるトラブルを未然に防ぐ仕事をしています。

Q.放射線を使った検査にはどのような特徴がありますか?

放射線検査は、構造物の内部の情報を調べる検査です。試験体に放射線を照射して、透過された放射線をフィルムに映し出すことで、内部の状態を画像化して見ることができます。複雑な解析が不要なことが放射線検査の大きな特徴ですね。きずや異物の有無は画像を見れば一目瞭然なので、お客様から客観性が高いと好評です。

空洞のようなきずのある箇所は正常な場所に比べて放射線がよく透過するので、黒い像として映し出されます。

特殊な技術ですので、たまにテレビ局や文化財施設から少し変わった検査の依頼もいただきます。某テレビ番組では、変な音が鳴る外国製の椅子を調査し、マイクロフォーカスX線装置を使って椅子の中でうごめく大量の虫を見つけました。文化財に関しては、謎とされてきた構造や作り方を解き明かすために、大阪城や薬師寺などの歴史ある建造物や仏像を検査することがあります。未知のものを解明できるおもしろさを感じながら、このような検査にも興味津々でトライしています。

Q.放射線検査といえば病院のレントゲンやCTが思い浮かびますが、同じ仕組みなのでしょうか。

身体か人工物か、という対象の違いがありますが、どちらも表面から見えない内部の情報を調べる検査ですので基本的な仕組みは同じです。異なるのは検査する環境でしょうか。病院のレントゲン室やCT室のように当社にも放射線検査用の施設があるので、お客様に物を持ち込んでいただいて検査を行う場合もあります。しかし、私たちの検査対象の多くは工場や発電所などの施設・設備ですので、お客様のところに赴いて検査を行う場合がほとんどです。そのため、検査を行う前には放射線管理区域を法規制に基づいて厳密に設定し、検査終了まで作業者以外の立ち入りを禁止するなど、周囲の安全に細心の注意を払う必要があります。
また、現場に合わせた検査方法を検討することも重要です。小型軽量のX線装置や、車載型の検査システムなどを導入しており、お客様の都合に合わせて柔軟に検査をしています。

こちらの車にコンピューテッド・ラジオグラフィ検査システム(FCR)が搭載されています。

車内では、検査から画像処理、画像の記録保存までの一連を行うことができます。

他には、検査結果の表示方法が異なります。病院ではデジタルモニターを利用しますが、工業分野での検査においては、多くの場合、フィルムに映し出すアナログな方法を取ります。というのも、フィルムの方がより詳細な判断が可能だからです。画像を構成する要素のサイズを比較すると、デジタルの「画素」はおよそ50~100ミクロンですが、フィルムの画像を構成する「潜像(粒子)」は数ミクロン。構成単位が小さい分、識別性に優れているのです。工業分野では医療分野に比べて微細な損傷を調べる必要があり、法律でもフィルムの使用が定められています。
ただ、技術は進歩していますので、最新のデジタル技術であればフィルムと同等の検出性・識別性を備えています。規制が緩和されれば、今後は工業分野の検査もデジタル化が進むでしょう。

Q.篠田さんはどうして今の仕事に就かれたのでしょうか。

大学時代に放射線の一種である「電子線」の研究をしており、卒業後も放射線に関わる仕事がしたいと考えて今の会社を選びました。放射線が初めて発見されたのは100年以上前のことですが、新しい放射線技術は今でも生まれ続けています。放射線技術を新しく発見することで、新しい検査の開発も進めることができるので、発展の可能性が広がり続けるおもしろい分野だと感じています。

Q.篠田さんは、現在どのような仕事をされていますか。

技術開発部門、検査部門を経て、現在は検査に必要な技術や知識を社員に指導する仕事をしています。
検査の教育は、必要な資格の取得に向けた座学教育と、実際の現場で学ぶ実務教育の2段階に分かれています。放射線検査は特に安全性が問われる技術であり、少しの気の緩みから大きな事故やトラブルを引き起こす可能性があります。したがって、特に座学が重要です。放射線の性質の理解はもちろん、放射線利用にあたってのコンプライアンスについても高い意識を持てるよう教育しています。まずは机上でしっかりと知識を蓄え、その後に現場で法規制を遵守した放射線技術の利用法を学ぶ。2段階のプロセスによる徹底した教育を行っているので、お客様には安心感を持って放射線検査を利用していただけます。

Q.非破壊検査株式会社は今後どのように発展すると思われますか。

放射線検査の需要増加に応えられるような、新しい技術や検査を強みとして発展していきたいと考えます。
「見える化」というワードがトレンドの今、見えないものを「見える化」する検査はますます需要が高まると思われます。その需要に応えるべく、今まで見えなかったものさえ「見える化」する新しい放射線技術に期待しています。現在考案中のもので具体的に例を挙げるとすれば、「物から反射した放射線」を画像化する検査技術です。放射線検査では、放射線照射装置と透過した放射線を映すためのフィルムの間に対象物を挟んで撮影します。一方、空港の手荷物検査で行われているような放射線検査では、放射線を対象物に当て、対象物から反射した放射線を画像化しています。同じ放射線を使う検査でも、前者は「物を透過した放射線」、後者は「物から反射した放射線」を画像化するため、画像に映って見えるものは異なるのです。
この「物から反射した放射線」を工業分野でも上手く利用すれば、これまで発見できなかったきずや異物を見つけられる検査が可能ではないかと考えています。
国内全体の傾向としても、再生可能エネルギーの増加やカーボンニュートラル化に伴って、新しい技術や産業が生まれていくと考えられます。私たちも時代の流れに乗って、品質保証をする立場から新しい産業分野に参画していきたいです。厳しい法規制があるために体制を整えるのが難しく、放射線検査を行っている会社は限られています。ですので、放射線検査を会社の大きな強みとしてこれからも活用していきたいです。

Q.最後に、放射線技術に関わるこれからの若者へのメッセージをお願いします。

世間には放射線に対してネガティブなイメージを持たれている方が多いと思います。しかし、弊社や病院で行うような放射線検査を取りやめるべきだという声はあまり聞いたことがありません。安全に利用するための法規制がしっかりと定められており、有用性と危険性を天秤にかけたとき、有効利用によるメリットが勝るからこそ広く活用されているのでしょう。
これからも放射線技術は暮らしを支えるものとして発展し、さまざまなところで活躍するはずです。放射線に関わる技術を学び、活用することで、みなさまにはこれからの便利な社会作りを担っていただきたいです。

非破壊検査株式会社

会社概要

1957年、非破壊検査のパイオニア・リーディングカンパニーとして創業。エネルギー産業・社会インフラ・重工業などのさまざまな分野で使われる設備・構造物・部品・材料等に対して非破壊検査を実施している。平均でも6種類以上という資格を有する検査技術員たちと、現場に根差した独創的技術力によって、あらゆるプラントや社会インフラの事故を未然に防ぎ、社会や産業・暮らしの「安全」を守っている。

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